民営化すれば効率や消費者が向上し、価格も下がるという神話がある。確かに「親方日の丸」の傲慢さがあったが、民営化でそれがなくなったとは見えないし、金儲け営業が正当化されたため、余計に始末におえなくなった。
国連特別報告は警告する
2018年10月19日、国連特別報告者フィリップ・アルストンが民営化に関する報告書を国連総会に提出した。彼は貧困と人権に関する調査官だが、民営化が貧困と人権侵害をもたらしていると報告したのだ。
彼は世界銀行、IMF、そして国連が各国に社会的基本サービスの民営化を推奨していると批判し、さらに人権擁護団体が民営化がもたらす人権侵害に注意を向けず、批判運動を展開しないと非難している。「刑法関連事業・施設、社会的保護施設、刑務所、教育、基本的医療、その他日常生活に必要な公共サービスが民営化されると、必ず人権尊重を放棄するようになる」ことを指摘し、「国家は、国民に対する基本的任務を民間企業に委譲して、人権擁護の義務を放棄してはならない」と警告した。
コスト削減、効率向上、顧客サービス向上などが民営化の理由に挙げられているが、アルストンによれば、事実は逆だという。彼は二つの研究を引用して説明している。一つは英国の監査局の監査報告で、病院、学校、その他の公共インフラを民営化した結果、運用費用が高くなり、効率も悪化した。もう一つはEUの欧州会計監査院の監査報告で、フランス、ギリシャ、アイルランド、スペインの第三セクター(公民共同事業)による道路・運輸関連や情報・通信関連の事業を調査した結果、「民間を入れて第三セクター化したために事故や失敗が増加、働く人の賃金・手当が激減した」という。
無産者を見殺しにする民営化
民営化は、公益・人権・平等などの理念を排除し、カネ儲けを主要目的にする。カネになる人はクライエントとして大切に扱われるが、生活困窮者はその範疇に入らない。私には、母親がガンで寝込んで電気料金未納になり、電気なしの生活をした少年期の記憶がある。
刑法関連(刑務所や犯罪や騒乱取り締まり)、軍事部門、教育関連(給食ばかりでなく。授業や試験も)、医療、社会福祉など、あらゆる部門に民営化の波が推し寄せ、それが大きな社会的差別を産み出している。
社会的保護事業が民営化されると、経済的効率を重視するために人々の相談やケアにかける時間が減少し、治療時間短縮、料金上昇をもたらす。そしてカネ持ちだけにサービスが向き、財のない者たちを見殺すという差別が一般化する。
日本で水道民営化が進められているが、1990年代に世界で試みられた水道民営化は大失敗(サービス低下、水質低下、料金高騰、アカウンタビリティ欠如、人員削減による失業者増加など)し、再び公営に戻すことが、267件も起きている。
彼は、人権擁護運動がそういう問題をもっと取り上げ、活動すべきだと勧告している。「世界的潮流となっている民営化がもたらす害悪と徹底的に対峙する新しい闘争方法を考えなければならない。民営事業の中核に人権尊重と公的責任を据える運動を展開すべきだ」と警告している。